月夜は十六夜の許可を得て、昼は側使として務め、夜は白童の邸を調べることにした。
 養父が遺した謎につながるものが、遺品の中にあるかもしれない。
 渡された鍵にも、それにあう鍵穴が必要だ。
 手がかりは、あの夜に云っていた確かめたいこと。
 白童はいったい何を確かめようとしていたのだ?

「……ふぅ。これだけの書物があるというのに、重要なものが1つも見当たらない。しかも…なんだこれは?」

 積み上げられた書物の表題は、「今どきの若者」「男の子の秘密」「父親になる方法」…?

「子育てはディナーのあとで…って、白童様…いったい何を…」

「愛されてはったんですなぁ、月夜様は」

 突然の思いがけない声に、驚いて息が止まる。
 慌てて振り向くと、イシャナの胡散臭い顔が月夜のすぐ後ろにあった。
 反射的に後ずさる。

「な、な、なぜここに…」

「ああ。すんまへん、驚かしてもうて…夜更けやゆうのに、月夜様がこの邸に入ってくの見かけたもんやから」

「見かけた…って、だからってこんなところまでついて来るか!」

 イシャナは飄々とした態度で月夜が手にした書物をひょいと取り上げた。

「なにをする! それは…」

「あない厳しいお人が…こないな書物を読んでまで、子を思う気持ち…なんや胸にきますわ」

「白童様のこと知りもしないくせに、勝手なことを」

 月夜は云ってイシャナから顔を反らした。

「親の子への気持ちは、どこの国も変わらしまへん。月夜様もいずれは親にならはりますでしょ…そうすれば」

「私は帝に命を捧げた。親になど…」

「白童様かて同じやったんとちゃいますの?」

 月夜はハッとさせられた。