月夜はハッとして十六夜から身体を離した。

「ご、ごめん。つい、昔のつもりで…」

「昔はよくこうして二人、くっついておったな…いや、余がそなたに甘えてばかりおったのか」

 十六夜は机の向こう側にまわると、ひきだしから何かを取り出し戻ってきた。

「これは…」

 花弁は白くて、真ん中が黄色い、宮の中ならどこにでも咲いている…。

「百月想(ひゃくげつそう)の花…なぜこれを?」

 この花には云いつたえがあった。
 その昔、互いに想い合うもの同士が、相手のしあわせを祈りつづけた百の月、想いは永遠に1つとなり、魂は花に生まれ変わったという。

「余はそなたにしあわせであってもらいたい。それを伝えたかった…」

「十六夜……ボクも君のしあわせを祈ってるよ。だからこそ、ボクは月読になったんだ」

 二人は互いの両手を握りあった。

「そうであった。そなたは余の願いを叶えてくれたのじゃったな…月夜」

 幼い頃に誓い合った約束。
 月夜は十六夜を、十六夜は月夜を助ける。
 二人は幼馴染みで義兄弟で、親友だった。

「十六夜が、そう望んでくれたから。側使にもなれた」

「余の傍にいてくれ。そなただけは、失いたくない。どんなことをしても…」

「十六夜…」

 自分にすがる十六夜に、昔の面影を見た月夜は、懐かしさに微笑みを浮かべた。
 かわいい十六夜。
 いつも自分のあとを追いかけてくれた小さき皇子。
 今になっても、変わらず慕ってくれている。

「大丈夫だよ。ボクはずっと、十六夜と一緒だ。なにがあっても」

 二人はもう一度、互いを抱きしめあった。
 近衛のことも忘れて。