一段高くなった部屋の中央に執務机が置かれ、その手前に立っている十六夜の両脇には二人の男が控えていた。
 一人は次の最高位とも噂される月読、天照(あまてらす)と、もう一人はあまり見ない顔の壮年の月読だった。
 月夜の顔を見るや、帝は人目もはばからず嬉々として走りよった。
 上等な手織り布で美しく縫製された執務着に身を包み、頭には帝の冠が、目立たなく優美な細工が施されており、付属した顔布が顔の半分を覆っている。
 幼いころから、十六夜の瞳はこのように包み隠されていた。
 ガルナの王族はみな、その髪と瞳を自分以外に見せることは、はばかられているのだ。
 ゆえに、月夜さえ彼の髪の色も瞳の色も知ることはなかった。
 顔布からおぼろにのぞく十六夜の目が、昔と変わらぬ笑みを浮かべた。
 ガルナの民と同じ浅黒い頬がほころべば、まさかこの無邪気に笑う少年が一国の君主だとは、誰も信じないのではないかとさえ思える。

「…すまぬ。月夜が悲しんでいるときに、余は何もしてやれなかった」

 突然十六夜の表情は曇り、一転して大人びた悲痛な顔をみせる。
 月夜はおもむろに首を振った。

「帝のお気遣い、ありがたく存じます。ですが、心配には及びません。それよりも、執務のあとにお話が…私にお時間をいただけますか」

 うやうやしく頭を下げる月夜に、十六夜はすぐさま人払いを命じた。
 天照の、去り際によこした視線が気になったが、いまはそんなことに構っている場合ではない。
 部屋には十六夜と月夜、そして距離をおいて控える近衛だけになった。

「月夜、本当に平気か? 余に嘘をつくのはやめよ…そなたと余は兄弟も同然じゃ。そなたが辛いと、余も辛い」