いつも一緒にいた十六夜と逢うことができなくなった元服の季、毎日白童の部屋であらゆる書物を読み耽っていた。
 いつしか月読になることが、月夜にとって唯一の希望になった。
 もともと月夜にはそれしかなかったのだ。
 念願は成就し、ようやく月読として白童の役にたてると思った。
 しかし突然に、こんなかたちで別れがやってくるとは――。

「悲しんでる場合ではない……白童様に何があったのか、その原因がわからないうちは……ボクは納得できない」

 白童の残した数々の思いが、月夜には今も生々しく感じられた。
 養父が最期に口にした言葉、その話も、なにひとつ終わってはいない。
 主を失った書物が山と積まれた部屋で、月夜は密かに誓いをたてた。

「その答えを…絶対に探し出す」


「このたびはお悔やみ申し上げる。月夜様」

 これまでのおちゃらけた態度とは裏腹に、いたく真摯な顔をしたイシャナに道をふさがれた。

「……あぁ」

 戸惑いを感じつつ受け流そうとした月夜だったが、思えば最初にイシャナがくっついていたのは、当時の側使である白童だった。
 彼なら月夜の知らない白童の行動に気づいていたかもしれない。
 それとなく月夜は訊いてみた。

「イシャナ…白童様のことで何か気づいたことはなかったか?」

 視線だけを動かしたイシャナは、何かを知っている風には見受けられなかった。

「気づいたこと…? 月夜様は、何や気になることでも?」

「いや、何もないならいい。忘れてくれ」

 月夜はすぐに引き下がった。部外者に必要以上の質問を投げかけることは、同時にこちらの手の内をさらすことにもなり兼ねない。

「在職中突然こんなことになり、お前もさぞ驚いたことと思う。しばらくは面倒をみられないが、国に帰るかどうかはお前の自由にすればいい」

 それだけ云うと、月夜はイシャナから目を逸らした。