――まさか十六夜が…。

 昨夜訊かされたあのことが脳裏をよぎった。
 なぜもっと早くに手を打たなかったのかと、月夜は唇を噛んだ。
 しかし、扉をひらいたとき知らされた事実は、月夜をさらに追い詰めることとなった。

「白童様が……亡くなった?」

 月夜の手のなかで、白童に渡された鍵が冷たく鳴った。

 突然要の柱を失った月読寮は、その葬儀が終わってからも落ち着く気配を見せなかった。
 当然だろう。帝に次ぐ権力を持つ月読の最高位に納まる器の人間など、そうそういはしない。
 しかし、誰もがその地位につくことを、欲しているのも事実。
 これはそう容易に片づくようなことではない。
 それを尻目に、月夜は白童の死因を訝しんでいた。
 あんな話のすぐあとのことだ、当然疑うべきなのだが、養父は寝室の前で息絶えていたことを知り、月夜の中に疑問が生じた。
 白童は考えごとがあるとき、刻の間に引きこもる癖がある。
 月夜がよばれたときも、おそらく養父はずっとあの部屋にこもっていたのだろう。
 それに、確かめたいことがあるとも云っていた。
 それがなんなのかはわからないが、彼がああ云ったのだから、きっとしばらくは刻の間にいるつもりだったはずだ。
 白童の寝室は、月読達の部屋とは別に、刻の間からわずかに離れた場所、帝の御殿が遠目にもしっかり見渡せるところにある。
 寝室とはいっても、数えきれないほど部屋のある豪邸だ。
 どの部屋の前で倒れていたのかわかっても、白童がそこを使っていたかまではわからない。
 なにせ彼の部屋はどれも、書物が溢れているばかりで、まともに寝られる場所などないのだ。
 月夜は、そんな部屋で毎日本ばかり読んで過ごしたのを思い出した。