伸ばした銀髪を頭の後ろで一纏めにし、馬の尾のように垂らした宮特有の髪型は、階級によってその長さが違う。
 それが長いほど、高い身分をあらわすのだ。
 国で二番目に長く髪を垂らした白童の、灰色の瞳が月夜を映した。

「…月夜よ。このたびお前が帝の側使となったは寿ぐべきこと…。幼き頃から、人知れず努力を続けていたお前を、私は陰ながら見守ってきた」

 手元にあった書物を静かに閉じると、白童は刹那にまぶたをとじて、そしてまた月夜を見た。

「…よくぞやってくれた。父として、誇りに思う」

「白……」

「だが、これから申すことは、お前のその努力を無下に扱うことになろう…」

「いったい何を…?」

「月夜よ、よく訊け。帝から目を逸らしてはならぬ。これからどんなことがあろうとも、お前は最期までこの国を見届けよ。それがお前の…月読のつとめだ」

 月夜を見る白童の顔は蒼白で、ここまで深刻な表情を見せる養父に戸惑った。
 なんと言葉を返せばよいのか、云い知れぬ不安に脅かされ、月夜は横に首を振る。

「な……なにをおっしゃるのか……これから何があると云うのです? 帝に何かあると? 白童様、なぜそんな…」

「月夜よ……前帝は、暗殺されたのだ」

 想像もしなかった言葉を訊き、全身に衝撃が走った。

「な……殺され? まさか、誰が……」

「何者かはまだわからぬ……が、帝に近しい者であることは確かだ」

「まさか、この宮の者が? そんなはずは……そんなことをして、なんの意味があるというのです! 帝の治世は確かだった。弑逆など…」

 白童はうなずき、手をあげて月夜の言葉を制した。

「お前は賢い……私が云わずとも、いずれはそこにたどり着く……だがその前に確かめたいことがある。それからまた、お前に話して訊かせよう」

「白童様…」

「それまでこれを…」

 白童の手から、鍵の様なものを渡された。