「じゃあ、発車するよ。」
「はい。お願いします。」
「行き先は、昭和二十年
 三月十日でいいね?」
「はい。」
「本当に大丈夫?
 一度出発したら、
 もうここへは戻れないよ。」
「大丈夫です。」


蒸気機関車は、
ポッポーと音を
鳴らして発車した。

未来と過去をつなぐ
蒸気機関車が走りだした。
マチさんは窓から顔を出して
大きく手を振っている。

俺も彼女に向かって
大きく振り返した。
小さくなって
見えなくなるまで
俺は手を振っていた。


ずっとこらえていた涙も、
今になって落ちてきた。

結局最後まで
言えなかった言葉。


「マチさん、好きでした。」


心の中でそう唱えて、
静かに涙を拭った。