「兄だと思っていた人が
 急に男に見えてきたのね。」
「そうなの。」
「でも、告白しないの?」
「だって、達宗さんは、
 私のことを、妹だと
 思っているかも
 しれないじゃない。」
「わかんないよ!そんなこと。」


広美は、全く知らない人の
話でも、興味を示して聞いていた。
それが少し嬉しくて、
マチも話してしまう。


「でも、達宗さんとは
 今は会えないの。」
「なんで?」
「遠くにいるの。遥か遠くに…。」
「外国にでも行ってるの?」
「…まあ、そんな感じかな。」


マチは、複雑だった。
達宗とは、今は会えない。
どう頑張っても会えない。
いつになったら、元の時代に
戻れるかもわからない。
もしかしたら、二度と会えない
ということになるかもしれない。
今、マチがこうしている間にも、
東京に、また空襲が来る恐れもある。
そしたら達宗は…。

そう考えると、マチは悲しくて
怖くてたまらなくなる。


「あの人は、いつ死んじゃうか
 わからないの。」
「え!?もしかして病気なの?」
「あ、病気もあるんだけど。」
「何の病気?」
「喘息。」


広美は、首をかしげた。
病気というものだから、ガンか
何かだと思ったからだ。


「喘息で、今はあんまり
 死ぬ事はないんじゃない?」
「え?そうなの?」
「うん。医療も発達しているし。」
「そっか…(この時代は変わったんだわ。)」


しかし、マチにとっての不安は、
喘息よりも、空襲の方だった。