人込みの中をかきわけて通る様に、ジャックが走ってやって来た。大きな丸い柱にもたれ掛かっていた叶子を見つけると、途端に険しい表情から笑顔に変わる。

「──お待たせ、大分待った?」

 肩で息をしながら、叶子の前で立ち止まった。
 自分の為に急いでここに来た事を叶子は勿論わかっていた。彼の会社からこの駅までは、ゆっくりしていたらこんなに早く着くはずが無い。
 そんな彼を困らせたくなくて『ううん、全然。大丈夫だよ』と言うつもりが、叶子は彼に会えた事で一気に感情が噴出してしまったのか、頭の中で思っていることとは違う言葉が口をついて出た。

「遅いよ」

 歪み始める顔を見られるのが嫌で、俯きながら彼のジャケットの袖を細い指でそっと掴んだ。

「・・・・・・。」

 普段の叶子からは予想もつかない素直な言葉に、彼は大きな目を更に見開いた。
 口元を緩め、人目もはばからず叶子の肩をそっと抱き寄せる。

「逢いたかったよ」

 ただ一言そう呟いた。