「社長、本当に宜しいのですか?」
「あぁ、俺に気を遣うな。今日は年に1度の日だろ?」
「しかし……」
「俺の分もしっかり孝行して来い」
「…………はい。すみません、有難う御座います」
今日は沢田の実父の命日で、村岡夫妻と共に一条本宅で食事会をする予定になっている。
沢田の父…沢田善行氏は、会長の執事をしていた。
代々一条家に仕える家系で、信頼も厚かった。
会長がそんな沢田の父を思って“供養”と称して、毎年命日に食事会を開いている。
そして、今日…俺も参加する予定であった。
たった………5分ほど前までは。
今度のプロジェクトの取引相手から、急な会食に誘われ…
無碍に断る事も出来ず、仕方なく俺1人で出席する事に。
俺は17時30分に駐車場で沢田と別れた。
向かった先は、市内でも有名な高級ホテル。
俺はここを仕事でもプライベートでも良く利用していて……
「いっらしゃませ、一条様。お車、お預かり致します」
見慣れたドアマンに車のキーを渡して…
待ち合わせ場所の部屋へと向かった。