「たっくん!リョウコさんに声を」

「タクくん、手を!」

いろいろな事を言われたけれど、何も行動に移すことができなかった。

もう、何も見えないし、何も聞こえない。

心の中で僕は呼びかける。

「リョウちゃん。」

弱虫な僕には多分そんなことしかできない。

「リョウちゃん。ごめんね、何もできなくて」

うつろな顔をしているリョウちゃんの横顔を上から眺めて、僕は精一杯心の中で呼びかけ続けた。

そのとき。

白い手が宙にふわりと舞った。

リョウちゃんが僕に手を差し伸べている。

体の中でつっかえ棒が「ポキッ」と折れた音がして、僕はその手に飛びついた。

「ゴ・・メン・・タク・・・・アリガ・・・トウ・・・」

空気を揺らすかすかな振動がそう伝える。

僕はその声をもっと聞きたくて、リョウちゃんの首にしがみついた。

「タク・・タク・・・・・タク・・・・・タク・・・」

「リョウちゃん!リョウちゃん!リョウちゃん!」

何度か呼び返したあと、リョウちゃんの声は聞こえなくなった。

「うあああああああああああ!」

叫び狂う僕の腕の中でリョウちゃんは息を止めてしまった。