そのとき世界がグラついた。

リョウちゃんの周りから人がパッと離れて輪のように囲んだ。そしてその真ん中で博士がリョウちゃんに覆いかぶさるようにして大きな声を出している。

「リョウコさん!リョウコさん!」

肩をつかみ軽く揺さぶるようにして呼びかけるが、リョウちゃんは返事をしていないようだ。

心臓が爆発したみたいに、ドカッと大きくなった。

博士が何も言わずに、怖い顔をして僕たちに振り返る。多分こっちへ来いという意味なのだろう。

カズ君が僕の腕を引っ張ってリョウちゃんの近くに行こうとした。

でも、僕は、動けない。

「たっくん!なにやってんだよ!」

カズ君が僕を怒鳴りつけた。

でも、僕は、動けない。

「コノヤロウ!ふざけんなよ!」

カズ君は僕の襟元をつかむと、ものすごい力で僕を引っ張ってリョウちゃんの脇に連れて行った。

近くで見たリョウちゃんは、少し目を開けているようだった。

博士やカズ君が呼びかけると、声にならない声でそれに応えている。

僕は動けない。声も出せない。