駅から病院までは広い坂道になっている。

この道は、昔リョウちゃんに連れられて歩いた記憶がある。すごく小さいときの話だ。

歩くというより走った。僕はリョウちゃんに抱えられていたはずだ。

しがみついたリョウちゃんの背中が震えていることがすごく怖かった気がする。

いろいろな場面がバババとよみがえってくる。大声で泣き崩れていたのはリョウちゃんだったろう。すごく怖い顔で柱をにらみつけていたのは博士かな?

ベットの上に横たわっているのが多分お父さんだ。

大勢の人がぐったりと下を向いている静かな部屋の限りなく隅っこでに僕は立っていた。

笑うことも泣くことも許されない。そんな空間で僕は呼吸さえ音を立てないようにただ時間が過ぎることを待っていた。

2歳くらいの頃の話だからあまり確かな記憶ではないと思う。

ただ、しっかりと覚えているのだ。

リョウちゃんの震える方にしがみついて駆け抜けたこの道を。あの時感じたあのザラっとした感じを。