この家はおかしい。
俺の母さんは、父さんの愛人だ。
姓は俺の母さんだけ違う。
俺は、母さんを西城家に残してあの家から逃げ出した。
跡継ぎは兄さん。
だから、俺がこの家にいないといけない理由が分らない。
それなのに父さんは俺を養子から外そうとせず、母さんも香織さんも兄さんも皆が家族だと笑いながら言う。
「優人様、朝ご飯の準備ができました」
「いらない」
「では、お車用意いたしますね」
「あぁ、兄さんが迎えに来てくれるらしいから良いよ」
「分かりました」
兄さんもおかしな人だ。
自分の運命を分かっているのか分かっていないのか…。
そのうちさせられるであろう政略結婚じみたことを、あの人は簡単に受け入れるだろう。
「遅いな…」
別に学校くらい遅れても構わないけど、今日は母さんがパリから帰ってくる日だ。
できれば会いたくないから、早く来て欲しい。
「優、ごめんな。遅くなった」
「いいよ、別に」
俺は、兄さんの隣りに乗り込む。