「勇斗ー、大丈夫?」
「このくらいどうってことねぇよ」
そしてもちろんのようにいる、色気ムンムンなお姉様。
それもこの前に見た人ではない。
この人は一体何人の女の人と付き合っているのだろう?
「じゃ、仕事だから」
「うふふ、今夜も待っているから」
お約束のフレンチキッスでお別れ。
何度も見てきたけど、今のだにこの別れ方には慣れない。
見てる側には不快感しかないわ……。
私はクルリと反対を向いて歩き出した。
「ちょっと待てよ。一緒に行こうぜ」
「こないでエロ魔人」
「何でそんなに機嫌悪いんだよ」
私は足を止め、菊池先生と向き合った。
ここは学校。
生徒が多くのことを学び、育っていく場所。
そんな場所に不純な関係を持ち込むこの男。
今日こそはガツンと言ってやるわ。
「ここは学校ですよ!!いい加減女の人を連れ込むのはやめてください。生徒も見ているんですよ!!」
「なんだよオマエ」
無駄に低くなった菊池先生の声が、私の背中を逆なでた。
ぞわぞわと感じる恐怖。
偉そうに言い過ぎた!?
もしかして怒らせた!?
ど、どうしよう……。
「オマエ、妬いてんの?」
ハイ?
頭のなかがはてなマークでいっぱいになった。
「なんだよ、結局はこの俺に相手して欲しかっただけかよ」
「いやいや、私はそんなこと一言も言ってませんが……」
「照れんなよ」
菊池先生は私を軽く抱きした。
顔を私の耳に近づける。
微かに耳に当たる生暖かい吐息。
「もちろん、オマエのことも可愛がってやるよ……」
「っ……!?」
そして最後に軽く私の耳たぶを噛んだ。
思わずビクッと肩が跳ね上がった。
ガクンと膝から崩れ落ちる。
「じゃあな、俺の可愛い子猫ちゃん」
何事もなかったかのように、菊池先生は去っていった。
顔が熱い。
何も考えられない。
ドキドキが止まらない。
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◆ ◆ ◆
EP04 放課後
「お腹いっぱい」
授業が終わり、日も傾き始めた5時頃。
青かった空は綺麗なオレンジ色に染まっている。
「須藤先生、ちょっといいですか?」
職員室から出て、帰ろうとしていたところを悠先生に呼び止められた。
「どうかしたの?」
「その、ですね……」
悠先生は少し俯いてもじもじしている。
顔も林檎のように赤くなっている。
「よかったら、いまからケーキバイキングにでも、行きませんか……?」
こんな時間帯に!?
太っちゃうよ!!
でも、急にどうしたのだろう……?
「今朝のお礼がしたくて……」
「そんなあの一言だけで十分よ」
『今度は僕が守ります』
あの気持ちだけでも嬉しいのに……。
「それじゃ、僕が納得いかないんです!!須藤先生は強いので、誘拐されても自力で逃げそうですし」
最初はいいけど、最後の一言は……。
悠先生のなかで私は『女性』としてちゃんと認識されているのかな……?
まあ、せっかくのお話を断るのも悪いよね。
「じゃあ行きましょ」
「いいんですか!?」
悠先生はパッと顔を上げ、目をキラキラさせた。
大きな目はより一層大きくなった。
悠先生はバタバタと帰る用意をして、私を引っ張っていくかのように、職員室を後にした。
◆ ◆ ◆
「やぁ、めぐ~。こんなところで会うなんて奇遇だね!!」
「えぇ、そうね……」
学校を出発し、近くのデパートへとやってきた。
時間のせいか中は学生やサラリーマン、OLでごった返している。
そんな大勢の中に一際目立つ2人。
その1人がいま話しかけてきた雅先生。
「あれ天上先生まで……」
「俺はただ、コイツについて来ただけであって……」
一之瀬先生も天上先生もお互いに気付き、驚いている。
「なんで雅先生が……」
折角の一之瀬先生とのお出かけ。
天上先生はいいとして、まさかコイツに会うなんて……。
なにか企んでいるの?
「べっつに~。僕は急にケーキが食べたくなっただけだよー」
いかにも『2人がケーキバイキング行くのを知ってました』という顔をしている。
その証拠にさっきから悠先生を私に近づけないようにしている。
「ねぇ、めぐ。お姫なんて天上に預けてさ、僕ともっと楽しいところに行こうよっ」
「結構。いいです。間に合ってます!!」
「ことごとく拒絶するんだね」
もういいや。
そう呟いて天上先生の方へと戻っていく。
雅先生は諦めたらしい。
今日はあまりしつこくないようだ。
そっちの方がありがたいんだけどね。
私は一之瀬先生に行こうと言って、再び歩きだそうとしたが。
「折角なので4人で行きませんか」
一之瀬先生は顔の前に両手を合わせ、天使のような笑顔で言った。
この子は一体どこまで危機感が無いの……。
雅先生は邪魔しに来ているのよ!!
早く早く!!
一之瀬先生は子どものようにハシャギながら雅先生の腕を引っ張っていった。
私は天上先生と2人残されたまま……。
お誘いはどこへ行ったの?
「おい、オマエ」
天上先生は私の方をちらっと見ながら話しかけてきた。
「何よ」
「気をつけろよ」
「雅先生に?」
「違ぇよ」
天上先生はそっと私に耳打ちした。
「お姫、すげぇ大食いだから……」
◆ ◆ ◆
「やっぱり王道の苺のショートは欠かせませんよね!!あ、このティラミスも美味しそうです!!」
悠先生のお皿はどんどんとケーキで埋まっていく。
埋まれば次のお皿を持ってきて、黙々と盛っていく。
「うそ、でしょ……」
「だから言っただろうが」
悠先生は店内に入るや否や、世のスイーツ女子に負けないスピードでケーキの元へと行った。
次々とケーキを選んでいき、いまや7皿目に突入しているところ。
また机に運んだきたものは、ものすごい勢いで悠先生の体内へと吸収されていく。
それに対して私と雅先生は2皿目。
天上先生はシュークリーム1個しか食べていない。
乙女というより、何か乙女を超えたような……。
普通の乙女でも食事前にはあんなに食べないわ。
そもそも乙女は別腹にスイーツを入れるはず。
とにかくスイーツ女子でも、あんな暴食はしないわ!!
なんて思いながら私はフォークを進めた。