◆ ◆ ◆
助けなきゃ!!
「や、やめなさいよ!!」
「す、須藤先生……」
私は思い切って男達の前に立ちはだかった。
男も悠先生もポカンとしている。
暫くして我に返った男達が顔を近づけてきた。
「なんだよオマエ。邪魔しようってかぁ?」
「そうじゃない。可愛そうな貴方達に真実を教えてあげるだけよ」
「はぁ?何言ってんだよ」
フフフッと私は勝ち誇ったように笑った。
いま後悔させてあげるわ!!
「この人は、本当に男よ!!」
証拠として、悠先生をぐいぐいと男達の前に差し出す。
そして男達の手をつかみ、悠先生の喉元に触れさせた。
触ってみないとかわないほどの、小さい喉仏。
それが男ということの証明。
はじめはポカンとしていた男達も、男と証明するものに気がついたのか。
顔にはどんどんと変化が現れ始めた。
金髪の方は無表情ながらも、冷や汗を流している。
黒髪の方はいかにも分かりやすい。
かなり驚いた表情をしている。
「さぁ、わかったでしょ!!ほらしっしっ」
私は犬を追い払うかのように、男達に吐き捨てた。
慌てて男達は走って行った。
「あう、すどうぜんぜいぃー……」
悠先生はボロボロと涙をこぼしながら抱きついてきた。
よほど怖かっただろう。
私はその小さな体を抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いた。
ってこれ、何かおかしくない?
なぜナンパされた男を女が助けて、女が慰めているの……。
「ほらほら悠先生。もう泣かないの」
「うぅ、ごめんなさい……」
そのまま悠先生を1人で出勤させる訳には行かないと思い、手を引いていく。
またナンパされたら大変だしね。
「今度は、今度は僕が助けます」
悠先生は鼻声で私に誓った。
それは悠先生にとっては大きな決断なのだろうな。
「それは頼もしいわ」
楽しみに待ってるよ。
⇒88ページへ
◆ ◆ ◆
「汗輝く」
強烈に見たくないものを見てしまったわ……。
思わず猛ダッシュで雅先生から逃走。
後ろを振り返ると誰もいない。
体力がないのか、雅先生は私に追いつくことが出来なかったようだ。
「走りすぎた……。喉渇いたな」
鞄の中をゴソゴソと漁って水筒を探す。
しかしどこにも無い。
「え、もしかして忘れて来ちゃった……」
思い返せば机の上に置いたままのような。
やってしまった!!
「買うしかないか……」
でもどうしよう、今月は洋服を買いすぎてお金無いのに。
今は僅かな出費でも惜しいくらいよ。
だからといって、背に腹は替えられないよね。
私は買うことを決心した。
そこに自販機もあることだし。
でもバリエーションがちょっと少ないかな。
どうしよう…?
◆ここで買っていこう ⇒80ページへ
◆学校の購買でいいや ⇒84ページへ
◆ ◆ ◆
ここで買っていこう
自販機にお金を入れようとしたとき。
「へ?」
「ん?」
2人の手がぶつかると同時に、小銭がカチンと音を鳴らした。
横には見覚えのある黒髪に鋭い瞳。
それとは対象的に、身体は白いジャージに包まれている。
「天上先生……。こんなところで何を」
「ジョギングで通りかかった。それだけだ」
「そうですか」
「それでオマエは?ここは学校と逆方向の道のはずだが」
「いや、それは……」
私は言葉を濁らせた。
雅先生から逃げてきました。
なんてきっと信じてもらえないよな。
なんて言い訳しよう……。
「なんだ迷子か」
「そんなんじゃないわよ!!」
大声で反論したとき。
チャリン
私の手から小銭が零れ落ちた。
それはコロコロと転がり、見事に自販機の下へ。
「いやあああああああ!!」
「うぉ、なんだよ!?」
突然の悲鳴に天上先生はビクッと肩を上に上げた。
でもそんなことはお構いなし。
私の百円が!!
大切な大切な百円が!!
すぐに私はしゃがみ込み、自販機の下に手を突っ込む。
ぐいぐいと奥への伸ばす。
しかし取ることができない。
せいぜい中指の先に少し当たるぐらいだった。
手を引き抜いた私は、呆然としていた。
「おい大丈夫かよ、オマエ」
「百円が……」
「別に百円ぐらいいいじゃねぇか」
「良くないわ!!私の、私の一ヶ月のお小遣いの残りがぁ!!」
「え、まじかよ」
その通り。
私のサイフの中に入っているのは、さっき落とした百円、ただ1枚のみ。
こんな形でお小遣いを使い切るなんて!!
一方天上先生はそんな私に声をかけることも無く、黙々と飲み物を買っている。
ふんっ!!
お金に余裕がある人はいいわね。
ガコンと缶ジュースが落ちる音がした。
天上先生は自販機の取り出し口のカバーを上げ、缶を取り出す。
ぴたっ
「ひぃ!!冷たい!!」
先ほど買った缶を天上先生は私の頬にくっつけてきた。
何、なによ!!
「その、俺の責任でもあるしな……。飲めよ」
「えっ」
「ほら、いいから!!」
私は慌てて受け取り、プシュッと開けた。
種類はオレンジジュース。
甘酸っぱくてとてもおいしい。
「飲んだらさっさと学校にいけ」
「あの天上先生の分は……」
「いらん」
天上先生は靴紐を強くくくり直し、また走る体勢をとっていた。
「その、脅かしたりバカにしたりして、スマン……」
そう言って天上先生は急いで走り去っていった。
額についた汗が頬を伝って落ちる。
日の光りを浴び、キラリと光った。
「シャイなくせに……」
天上先生の顔は、後ろから見ても真っ赤になっているのが分かった。
⇒100ページへ
◆ ◆ ◆
「通常運転」
いろいろ遭ったけど、何とか出勤できた。
校門をくぐる生徒達。
何人もの人が挨拶をしてくれた。
みんな良い子だな。
なんだかとってもいい気持ち。
今日も頑張ろう!!
「邪魔だヘンタイ女」
ベシッ
「痛いっ!!」
叩かれた部分を擦りながら振り返ると、そこには菊池先生が。
ちょっと眉間にしわが入っている。
ご機嫌斜めのようだ。
ツンと鼻を刺すアルコール臭。
さては二日酔いね。