~校内恋愛禁止ですっ!!~


◆ ◆ ◆

話しかける



「岸谷先生、おはようございます」

「あ、めぐちゃん。おはよう」



岸谷先生は本に向けていた視線をゆっくりと私の方へ向けた。

そして太陽のような暖かい笑顔。

今日も岸谷先生は優しい。



「ところでそれは何の本ですか」

「これ?」



パタンと本を閉じて、表紙を私に見せてくれた。



「教育に関する本だよ。やっぱり教師である以上、正しい教育方法を知らないとね」

「そうですかー」



真面目すぎるよ岸谷先生!!

まるで先生の鑑よ。

私も見習いたいな……。



「でも結局、何が正しいかなんて、自分がやってみないとわからないんだよね」


そう言って岸谷先生はまた本へ向かった。

黙々と本を読み続ける岸谷先生を、私はただひたすら見ていた。

どちらかと言うと、見とれていたって言うのかな?



メガネや人柄のせいか、岸谷先生はとても本が似合う。

時々何か知識を得た喜びが、ニッコリと表情に出るのがまたいい。

何のためにお店に入ったのか。

いまはそんなことどうでもいいや。



「あのー、めぐちゃん?」

「はい」

「その、ずっと見られてるとなんだか恥ずかしくて……」

「わわっ、ごめんなさい!!」

「ううん、いいんだよ。謝らないで」



岸谷先生はその大きな手で私の頭を撫でた。

ゆっくりと伝わる岸谷先生の優しさ。

ちょっと嬉しかった。

「その、岸谷先生はとても本が似合うなと思って……」

「そうかな?」

「そうですよ!!とっても似合います」



とびっきりの笑顔で私は言った。



「ありがとう」



岸谷先生はそう言ってまた微笑んだ。



「僕は、めぐちゃんには笑顔が1番似合うと思うな」

「えっ」



不意打ちの一言に思わずドキッとした。

顔がどんどん熱くなるのがよく分かった。



「めぐちゃんの笑顔は誰かを幸せにする。いま僕は幸せだから」

「あわわわ……」



『ありがとう』はっきり言えない。

だから代わりに。



照れくさいけど。

私は小さく笑って見せた。



⇒114ページへ

◆ ◆ ◆

「待ち伏せ」



早めに行って授業の準備でもしようかな。

いつもどおりの道を、いつもどおりの速度で歩く。



時間が早いせいか、登校する生徒の姿は一切無い。

実はこの道、すこしでも時間を誤まれば男子高校生でいっぱいになるの。



パンを口にくわえてバタバタ走っている男子。

いかにも寝起きで、寝癖がすごい男子。

なかには慌てて小テストの勉強をしている男子も。



もう少し時間に余裕をもって行動すればいいのに。

男の人って、まるで単純。



溜息をついて俯くと、何か黄色いものが視界に入った。



「なにあれ」



もうすこし行った先にある電柱。

その影に身を潜めている人が。

体育座りの体勢で小さく丸まっている。

視線は道端に咲いている花。



よく見てみると、雅先生だった。



「あっ、めぐ!!おはよ~」

「……」



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◆ ◆ ◆

見ないふりをする



「ちょっとめぐ!!なんで無視するのさぁ~」

「私は貴方みたいな人、知りませんから!!」

「何このプレイ!?」



私はすぐさま逃げようとしら。

しかし雅先生ががっちりと私の腰にボールドし、前に進もうにも進めない。

逃げるのは無理ね…。



私は諦めて雅先生と向き合った。



「朝から一体何の用ですか」

「別に用なんてないよ」

「じゃあなんでこんなところに……」

「めぐがここを通るのを待ってたの。要するに待ち伏せだよ」



めぐの家はこっちで調べたしね。

鼻を高くして雅先生は偉そうにしていた。

「っ……!!」

「待って!!なんで無言で携帯を取り出すの!?」



ただのストーカーじゃない……。

こんな奴、さっさと警察に捕まればいいわ。



私は最後の番号『0』を押そうとした。

しかしすごい勢いで携帯を取り上げられた。



「こんなことしていいの、めぐ?また泣かされたいの」



私の携帯をポケットに入れ、雅先生はじりじりと近づいてくる。

あの飄々とした雰囲気はどこにも無い。



本気のドSモードだ。



「わざわざ僕が嫌がることするなんてね。そんなにお仕置きされたいの?」

「そういうわけじゃない!!」

「じゃあどうして?」



どんどんと近くなっていく2人の距離。

ちょっとずつ後ろへ下がって、すこしでも離れようとした。

しかし背中はドンと家の塀にぶつかった。



もう逃げようがない!!



あの朝のように。

また視界がすこしずつ暗くなっていく。



もしかして、また!?



「やだ!!やめてよ!!」



泣きそうな声で私は叫んだ。

しかし視界はいっそう暗くなっていく。

ポロリと涙が零れた目を思いっきり瞑った。

コツン



「へ……」



思いもよらない音に、私は恐る恐る目を開けた。

確かに雅先生の顔は目の前にある。

ただ感触を感じたのは唇ではない。



「えっ、えっ?」



雅先生の額が、私の額に触れていた。

その額はスッと離れていった。



「あはははははっ!!めぐってば面白ーい!!なに、キスされると思ったの」

「ななな……」



雅先生はお腹を抱えながら笑い続けている。

その姿を見ていると、妙にイラついてきた。

「この……」

「さっきの泣き顔、とってもよかったよ」


そして私の怒りの言葉は、次の言葉によって遮られてしまった。



「めぐは素直で可愛いよ」



雅先生は首を傾げながら、可愛く笑った。



想像もできない雅先生の仕草と発言に、すこし鼓動が速くなった。



な、なんでよ……。

こんな奴に時めくなんて。



時めいちゃいけないのに。



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