「始め!!」
審判の声とともに、私はすぐに前に駆け出した。
たしか、面と胴とかを取ればいいんだよね。
ここはかっこよく面を狙ってみよう!!
竹刀振り上げ、思いっきり振り下ろす。
しかしいとも簡単に避けられてしまった。
そのあとも、どれだけ攻撃してもよけられるばっかり。
その上は天上先生は一切攻撃してこない。
完全に遊ばれている……。
「ハァ、ハァ……」
「……」
体力はほとんど無くなり、重い胴着を着た体を支えるだけでいっぱいいっぱいだ。
時間ももうない。
これで決める!!
竹刀を振り下ろした。
パァン!!
「っ!?」
竹刀の先、たしかに天上先生を捕らえていた。
これってもしかして……。
「一本!!試合終了です」
「やったぁ!!勝った勝った!!」
竹刀を投げ捨てて、思わず小躍り。
偉そうな天上先生に勝った!!
「俺が負けたのはワザとだ。勘違いすんじゃねぇ」
「でも最後避けなかったよね!!」
「仕方ないく避けなかっただけだ」
そこにいそいそと部員の一人が割り込んできた。
「天上先生、嘘はいけないっすよ。最後の攻撃の瞬間、『こいつならいいな』って小声で言ったじゃないっすか~」
「俺はそんなこと……!!」
「えっ、そうなの!!天上先生って意外と優しい人なんですね。」
私は天上先生に向かって微笑んだ。
「そういう優しい人、大好き!!」
「なっ、ななな……!?」
どんどん天上先生の顔が赤くなっていく。
耳まで赤くして、口をぱくぱくさせていた。
「別にオマエのためなんて思ってねーよ!!」
大きな声で怒鳴り散らして、天上先生は出て行ってしまった。
あれ、もしかして怒らせた……!?
「須藤先生気にしなくていいっすよ」
「え、でも……」
「もともとああいう人なんっす。自分を素直に表現できないっていうか……」
いつも怖そうにしている人だけども、根はいい人。
そういう人、あまり嫌いじゃない……かも?
いつかありのままの天上先生と話せる日が来るのかな。
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◆ ◆ ◆
「ボランティア部」
『ボランティア部はいま、野外活動でグラウンドにいるから』
教頭先生のその言葉を信じてグラウンドへ。
でも……。
「ボランティア部なんて、それらしき部が全然ないじゃない!!」
ここにいるのは野球部員とサッカー部員。
どの部も一生懸命各々の練習に励んでいる。
騙された!!
あの教頭め!!
いつかバーコードリーダーで頭をピッてしてやるわ。
「あれ、めぐちゃんどうしたの?」
「あ、岸谷先生」
いつのまにか背後に現れた岸谷優二先生。
首にタオルをかけ、手には水を持っていた。
「何か探しものかな?」
「ここでボランティア部が活動していると聞いて、来たんですけど」
「もしかして顧問してくれるの!?」
岸谷先生は急に目を輝かせながら、私の手を握ってきた。
って、えぇ!!
何ですか、この展開!?
「いえ、一応下見に……」
「そっかぁ…。でもそれだけでも嬉しいよ」
すこし残念そうながらも、岸谷先生はニッコリと微笑んだ。
その笑顔にキュンとした。
「それじゃ、すこし部活動に参加してみる?」
「え、いいんですか?」
「うん、もちろん。実際にやってみるのが1番いいからね」
こっちだよ。
そう言って岸谷先生は私の手を引いた。
歩幅も私に合わせてくれているみたい。
優しいなぁ……。
そのとき。
「危ない!!」
坊主の野球部員が急に大きな声で呼びかけてきた。
上を見上げると、小さな点。
それはどんどん大きくなり、私の方へ近づいてくる。
ってあれって野球ボール!!
ぶつかる!!
ギュッと目を瞑った。
ふわっ。
そのとき体が浮いたような気がした。
「スミマセン!!大丈夫ですか!?」
「うん大丈夫だよ。はいボール」
岸谷先生はボールを拾って、野球部員に手渡した。
「バッターに言っておいてよ。『真剣に頑張るのもいいけど、ほどほどにね』って」
練習頑張ってね。
岸谷先生はグラウンドに戻る野球部員に手を振った。
ここまでの一連で気がつかなかったけど……。
「岸谷先生!!そろそろ下ろしてくださいよ!!」
「あ、ごめんね」
私がボール直撃から難逃れたのは岸谷先生のおかげだ。
当たる瞬間、岸谷先生は私の腕を引いた。
そしてその長い腕で私を包み込んだ。
ここまでいいんだけど……。
この場所ではまだ危険と判断したのか、後ろの方へ少し移動。
そのとき、包み込んでいた私を……。
お姫様抱っこしたのだ。
「こここ、こんなところで恥ずかしいじゃないですか!!」
「そう言われても…。引っ張りすぎて怪我させちゃ悪いしね」
「むぅ……」
「そんなに怒らないの」
そう言って私の額に軽くデコピン。
イタッと声が漏れた。
「とりあえず、行こうか」
スッと手をさしだされた。
私はその手を握り返した。
ちょっと恥ずかしいけど……。
「なんだか、めぐちゃんが妹のように思えてきたよ」
「違いますよ」
手を繋いだまま歩き続けた。
すこし顔が熱かった。
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◆ ◆ ◆
「帰り道」
「急に顧問担当だなんて……」
私は1人、家に帰ろうと道を進んでいた。
顧問の件はすこし考えたいと言って保留に。
初日で疲れているのに、いまから部活を回ろうなんで思えない。
それ以前に、めんどくさいと思っていた。
特に面白そうなんて思うものもなかったし……。
なによりどの部の顧問になったとしても、男しかいないもん!!
嫌だな。
やりたくないな……。
どうやって断ろう?
「なに、どうしたの?今帰り?」
「あ、エロ魔人……」
「おい、俺のことどんなふうに認識してんだ」
私の前には、電柱にもたれかかってカッコつけている男、エロ魔人がいた。
またの名を、菊池勇斗。