~校内恋愛禁止ですっ!!~


「す、すみません!!私の不注意で」

「大丈夫ですよ。僕も前を見ていなかったですし……。こちらこそすみません。怪我はありませんか」

「はい、大丈夫です」

「よかった……」



悠先生はにっこりと微笑んだ。



うっ、可愛い……!!

まるで天使みたい。

こんなに可愛いのに男っていうのがもったいないくらいよ。



「ってなにこれ?」


気持ちが落ち着いてからあたりを見渡すと、粉々に砕けたクッキーが散乱していた。

可愛いクッキーの姿はどこにも無い。


「今日、部活動で作ったお菓子です。いまから職員室の先生方に差し入れに行こうと思ったのですが……。」


これでは作り直しですね。

そう言って悠先生は肩を落とした。

もしかして私、すごく迷惑なことをした……!?

「あの、ごめんなさい」

「気にしないでください。また作ればいいのですから」

「でも私……」



涙声になりかけた。

そのとき悠先生の小さな手が、私の頭を撫でた。



「クッキーはいつでも作れます。でも怪我は一生残ります。須藤先生に怪我が無くて良かったです」



数回私の頭をポンポンと叩いて、悠先生はクッキーを拾い始めた。



「って、先生!!悠先生!!手が……!!」

「えっ?」

小さな手には大きなかすり傷。

真っ白の肌を赤く染めている。

すこし血も出ているようだ。



「この程度の傷なら、大丈夫ですよ」

「ダメです!!」



私は悠先生の腕を強引に引っ張った。

急ぎ足で保健室へ向かう。



「さっき『傷は一生残る』って言いましたよね」

「でも僕は男ですし、少しの傷跡ぐらいは……」

「私は嫌。もっと自分も大切にしてください」

「……」



クスリと悠先生は微笑んだ。

すこし照れくさそうに。



「なんだか須藤先生の方が男らしくって、かっこいいです」

「女性に対しての褒め言葉になってないよ!!」



でも自分より先に私の心配をしてくれた悠先生、かっこよかったな……。



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◆ ◆ ◆

「剣道部」



校舎から徒歩2分。

そこにある体育館の2階に剣道場があるらしい。



体育館の中に入り、入り口すぐ近くの階段を上がる。

上がるたびにムワッとした空気が一層濃くなる。

汗の臭いが私の鼻をズキズキと刺激してくる。



「うぅ、臭い。臭いよー」



かれこれ人生のなかで一度も体育部に所属したこと無い私にとっては、拷問でしかない。



「加齢臭みたいな臭いだよー」

「悪かったなぁ、加齢臭がして」



いつの間にか後ろには天上聖先生が。

鋭い視線を私に向かってビシバシぶつけてくる。

「なんだ。クレームでも言いに来たのか」

「違います!!剣道部の顧問をしようかなと思って……」

「はぁ!?オマエが!!」



天上先生は目を大きく見開けて、口をぽかんと開けた。

一見すると嫌そうな顔にも見えてくる。



何よ!!

なんでそんな態度をとるのよ!!



「無理無理。オマエに顧問なんてできっこねぇ」

「やってみないとわからないじゃない!!」

「なんなら勝負でもするか」

「え……」

「やってみないとわかないんだろ」



得意そうな顔をして、ニヤニヤしている天上先生。



ぐぬぬぬぬぬ……。

言われっぱなしで悔しい。



やってやりますよ!!

「制限時間は10分間。須藤先生が時間内に一本取れれば、先生の勝ちです」

「絶対勝ちますから!!」



結局勝負にのった私は天上先生と試合をすることに。

胴着は女子部員から借りた。

重くてとても違和感を感じた。



「バカバカしい……」


髪を手ぬぐいで包みながら天上先生はそう呟いた。

それと同時にフッと鼻で笑われた。

ムカッときた。

いまにその顔、絶望に染めてやるわっ!!

「始め!!」



審判の声とともに、私はすぐに前に駆け出した。

たしか、面と胴とかを取ればいいんだよね。

ここはかっこよく面を狙ってみよう!!



竹刀振り上げ、思いっきり振り下ろす。

しかしいとも簡単に避けられてしまった。



そのあとも、どれだけ攻撃してもよけられるばっかり。

その上は天上先生は一切攻撃してこない。

完全に遊ばれている……。



「ハァ、ハァ……」

「……」



体力はほとんど無くなり、重い胴着を着た体を支えるだけでいっぱいいっぱいだ。

時間ももうない。

これで決める!!



竹刀を振り下ろした。



パァン!!



「っ!?」

竹刀の先、たしかに天上先生を捕らえていた。

これってもしかして……。



「一本!!試合終了です」

「やったぁ!!勝った勝った!!」



竹刀を投げ捨てて、思わず小躍り。

偉そうな天上先生に勝った!!



「俺が負けたのはワザとだ。勘違いすんじゃねぇ」

「でも最後避けなかったよね!!」

「仕方ないく避けなかっただけだ」



そこにいそいそと部員の一人が割り込んできた。



「天上先生、嘘はいけないっすよ。最後の攻撃の瞬間、『こいつならいいな』って小声で言ったじゃないっすか~」

「俺はそんなこと……!!」

「えっ、そうなの!!天上先生って意外と優しい人なんですね。」



私は天上先生に向かって微笑んだ。



「そういう優しい人、大好き!!」

「なっ、ななな……!?」



どんどん天上先生の顔が赤くなっていく。

耳まで赤くして、口をぱくぱくさせていた。



「別にオマエのためなんて思ってねーよ!!」



大きな声で怒鳴り散らして、天上先生は出て行ってしまった。

あれ、もしかして怒らせた……!?



「須藤先生気にしなくていいっすよ」

「え、でも……」

「もともとああいう人なんっす。自分を素直に表現できないっていうか……」



いつも怖そうにしている人だけども、根はいい人。

そういう人、あまり嫌いじゃない……かも?



いつかありのままの天上先生と話せる日が来るのかな。



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