「…ひま泣くなよ」



悲しそうな顔で、

あたしの涙を指で拭う。



「だって…ぇ、だっ…」



うまく、しゃべれないよ…。

あたしのせいで玲央くんに

迷惑かけたくないのに…。



「ひま」



今度は玲央くんの優しい声がして。



「キスしたい」



え…?

こんなときに玲央くん何言ってるの…?






「答えは聞いてないけどね」



ふんわり笑って、玲央くんは

あたしの返事も聞かずに

あたしにキスした。



「泣かないで。ひまが泣くと

俺もつらいよ」



触れるだけのキスをすると

あたしをなだめるかのように

頭をぽんぽんしてくれて…。



いつのまにか涙も止まっていた。



「俺がひまを守るのは当たり前」


「でも…っ!」







「ひま 落ち着いて」



頭を撫でた手が

あたしのほっぺに落ちてきて。



玲央くんの冷たい手が

あたしのほっぺに触れた。



「俺は大丈夫。

ひまが言おうとしてることは

わかってるから」




『ね?』と優しい声で言われて

何も言えなくなってしまった。




あたしはコクッと頷いて

玲央くんに一瞬抱きついて

すぐに離れた。







次の日。

あたしと玲央くんが想像していたことは

やっぱり起こった。




校内で、冷血ボーイが

女子を抱きしめてたって噂でもちきり。




玲央くん、大丈夫かな…。




顔は見えなかったものの

身長とか、髪の長さとか。

そういうのは出回るわけで…。




「いやー!まさか

冷血ボーイに彼女がいたとは!」



あたしの肩を叩いて

なんだか面白がっているように言う葵。







あたしはそれどころじゃないのにぃ…。




さっきからずっと

ケータイを握りしめてる。

不安で不安で仕方ない。




「ね!冷血ボーイのクラス

行ってみない?」


「え?」




…まったく葵は。

面白がってるだけなんだから…。




葵って人の噂とか

そういうゴシップネタ?

が大好きらしい。







行く気マンマンの葵は

カバンの中の教科者を机の中に

適当に入れ、あたしを

無理矢理立たせた。




「ちょっ…葵っ!」


「いいじゃん!まだSTまでには

時間あるんだし!」




そうだけど…。



ニコニコ笑いながら

あたしの手を引いていく。



もはや抵抗しても無駄そうで…。



1年の階に着くと、

玲央くんの教室の前には

たくさんの女子たち。



「うわ!さすが冷血ボーイ!

人だかりの数が尋常じゃないね!」







玲央くんのクラスの前には

ほんとに沢山の女の子たち。




「近づけそうもないね〜…

面白くないなー」



残念そうにため息をついた。



近づかなくていいよ…。

もう、帰ろうよ…。



あたしはクイクイッと

葵のシャツを引っ張った。



「あ、あそこなら割込めそう!」



………効果なしっ!!!

しかも割込めそうだなんて…。








ズンズンとそこへ進んで行く葵に

この人だかりの中で

置いて行かれそうだから

あたしは渋々ついて行くハメに…。




「ふーぅ!ここ、案外絶景♪」




なんて嬉しそうな声で

廊下から教室を覗き込む。




あたしも少しドキドキしながら。

葵の影に隠れて覗いた。



教室の中も、やっぱり

クラスの女子が…。



玲央くんの姿は見えないけど

多分あそこだろう、という検討はつく。






玲央くん、クラスの女子に周りを取り囲まれてる…。




「冷血ボーイ…本当のこと教えて?」


「あ?」



……う、わ。

あたしも稀に見る不機嫌さだ。

あの声色…。




「昨日抱きしめてた子…彼女…?」



あの子はクラスの代表的存在なのかな。



みんな後ろから静かに見守って、あの子だけが質問してる。




「……」


「聞いてる?」


「聞いてない」