ゆっくりと足を踏み出す男から少しでも離れようと1歩1歩後ずさる。

しかし、何故か一向に距離が広がらない。

それどころか男は近づいて来ているようだった。

目を離してはいけない気がして向きあったまま移動する。

だが拮抗した状況はすぐに破られてしまった。


男が笑った。


唇から覗くほど長い牙と、血よりも濃い赤い瞳を曝《さら》け出して。