「無理よ、貴方はまだ手の調子が……あんなに過酷なコンクールはないわよ?」

帰国していた母にそう言うと、案の定の反応だった。

確かに過酷だ。

予選の課題曲はバッハの無伴奏ソナタから一曲選ぶ。ここは迷わず『シャコンヌ』を選曲した。

それと、シューマンのヴァイオリン協奏曲第一楽章、そしてパガニーニの『24のカプリース』より3曲を選曲。

出場者を三分の一以下までに減らされて行われるセミファイナルは、2つのリサイタル用プログラムを用意し、本番29時間前に審査員によってどちらを弾くか選ばれる。

そしてファイナルはヴァイオリンとピアノのためのソナタ一曲、ヴァイオリン協奏曲一曲、それ以外の新曲課題曲を、外界から遮断された部屋で8日間のうちにマスターし、挑むことになる。

「貴方も、貴方の指も、間に合う状態ではないでしょう?」

「パガニーニもシューマンも得意だ。バッハも……あれは死に物狂いで練習したんだ。絶対に予選を通る自信はある」