それから僕は、学園の悩める女の子たちのために相談に乗ることが増えた。

そうすることで、贖罪をしていたのかもしれない。

あの日掴むことが出来なかった、水琴さんへの。



普通の人、普通じゃない人、魔物や妖怪や幽霊だって、当たり前のように存在する学園。

非日常な日常は毎日が刺激的で、僕はいつも笑顔でいられた。

日々を笑いながら過ごすことが怪我にも良かったのか、入学してから1年ほどで完全に手の感覚が戻った。

主治医も驚くほどの回復ぶりだったけれど、それでも僕の耳が覚えている“僕の音”からはほど遠い。

それからまた1年は、レディと我慢の日々。

微かに残るピリピリとした痺れとブランクもあり、もどかしいくらいに動かない指に、我慢強く耐えて、耐えて。


やっとすべての感覚を取り戻せたと感じることが出来たのは、3年に進級する目前。

そうしてやっと、僕の目標が定まった。


5月にベルギーのブリュッセルで開催される、世界三大コンクールのひとつ『エリザベート王妃国際音楽コンクール』。

そこで、頂点に立つ。