「名前って!俺がつけていいもんじゃないだろ!?」
「いいよ」
何を考えてるかわからない表情のまま、僕を見上げてる。
名前!?
名前ってなんだ!!?
僕の頭は混乱で訳がわからなくなっている。
常識から外れた彼女の無茶なお願いを、受け入れようと必死になっている。
いつの間にか、僕は窓際に追いつめられていた。
この部屋の窓は、普通のものより低い位置にある。
太ももの上のあたりに窓枠があたって、背中には支えなんて何もない。
丁度、開かれているほうだったらしい。
ここは二階で、落ちたらどうなるんだろう。
死にはしないかもしれないけれど、きっと痛い。
それを想像したら、ゾッと背筋が凍った。
「棗」
彼女が僕の名前を呼ぶ。
上目遣いで僕に迫る。
ドキドキしてるのは、身の危険を感じてるからなのか。
それとも彼女を意識しているからなのか。
また訳がわからないことが増えた。
名前、名前、名前、名前?
すぐに思いついたりなんかしない。
後ろは空中。
僕は焦っている。
その時、もう一度あの番号が目に入った。
NO?
ローマ字で直したら『の』?
02って?
『×2』みたいな?
パニックになるのが特技の僕は、益々考えがまとまらなくなる。
『の』『×2』
その2つだけが、頭の真ん中に浮かんでる。
その時だった。
ズルッ
滑ったような、微かな音が耳元で聞こえた。
それは僕から発せられたものではない。
スローモーションのように、
僕と窓枠の隙間から、
僕にギリギリまで詰め寄ってきていた彼女の体が、
滑り落ちてゆく。