「棗でいいから。あとその言葉づかいもやめてくれよな、緊張する」
はは、僕の小さな笑い声が響く。
ぬるい風の中に、あたたかい空気が生まれる。
「そういえば」
僕は重大なことを思い出した。
「おまえ、名前は?」
僕の質問を受けて、彼女の動きが止まる。
「名前…?」
「名前くらいは聞いとかないと不便だろ?」
「………」
実は一緒に暮らしていくことについて、ものすごい戸惑いがある。
だけどもう決めたから。
家族として暮らしていくことを受け入れるから。
だから、これから生活していく上で。
名前とか、最低限のことは知っておきたい。