そこには、僕等の家族になるらしい少女がいた。



相変わらずの無表情で、姿勢良く立っていた。




「ななな、なんでいるんだよ!」


「こちらの部屋はわたくしが使ってよいものだと聞きましたので」




確かに、ここは彼女の部屋だから、入ってきていても悪くないんだけど…。



(け、気配がなかった…)




階段を登る音も、畳の上を歩く音も、近づいてくる気配さえ。




全くなかった。



少しだけこわくなる。




「申し訳ございません」




額をつたっていた冷や汗を拭っていると、彼女は頭を下げながら謝った。



「なんで謝るんだよ…?」


「棗さまに不快にさせました」



頭を下げたまま、彼女は感情の色がない声を出す。



「不快っていうか…」


「棗さまにとって、わたくしがこの家で暮らすことが苦になるのなら、わたくしは出て行きます」



自分のことなのに、なんて勝手で、あっさりした考えなんだろう。



「そしたらどこに行くんだよ」


「もともと行くところなどありません」


「それって…」



じゃあなんでこの家に来たんだよ。



ここが“行くところ”だったんじゃないのか。



ここしか、ないってことじゃないのかよ。




支離滅裂な、僕の思考がぐるぐるめぐる。



ぐるぐる
ぐるぐる



めぐりめぐって、僕は思った。



そして、後頭部しか見えない彼女に向かって言葉を落とす。





「別にいいよ」