「おっかえりぃ~」




ヒラヒラと顔の横で手を振って、何も考えていないような笑顔で僕を見ているのは。



紛れもなく、僕の父親だった。




「父さん…」




僕は小さなため息をつく。



そんな僕を見て、意地悪く口の端をあげた。



何か考えているような、そんな笑顔の父さんは僕に向けていた視線を少女に移す。




「いらっしゃい。迎えに行けなくてごめんな」




その言葉を聞くと彼女は深々と頭を下げた。




さらり、栗色の髪の毛が揺れる。




その柔らかそうな細い髪の毛の流れに目を奪われた。




「…って」




少女の足元に置いてあった大きなカバンを軽々と持ち上げて、家の中に持ち込んでいった父さんの後ろ姿に声を投げる。




「こいつ誰だよ!!」


「女の子に向かってこいつなんて言うなよなあ。あと指もさしちゃだめだぞー」




父さんは質問には答えずに、変な鼻歌を歌いながら家の奥へと入っていく。



そのあとを少女が静かについて行って、コンクリートの上で茶色のサンダルを脱いでから、キレイに揃えて端によせている。




それからギシギシと鳴く床を、小さめな歩幅で歩いて行ってしまった。




僕だけが家の外に置いて行かれた。