唐突で失礼な僕の質問を聞いても、彼女は表情を変えない。




「わたくしですか?」


「あ、ああ…?」




単調で、見た目から予想される年歳に似合わない話し方に少し戸惑った。




「わたくしにもよくわかりません」


「は?」


「わたくしが誰なのか」



意味がわからない答えに、僕は首を傾げた。




平然とした表情と声なのに、瞳の中のひかりだけが寂しそうで。



僕の胸は締め付けられる。




「な、名前とか…」



僕なりに気を使ってしまい、あとの言葉が出てこなくなった。




いつの間にか立ち上がっていた彼女が、僕を見下ろしながら。



少しだけ不思議そうに笑った気がした。