黒、灰色、白。
モノクロの世界って言うらしいけど私にはそれが普通だった。
濃淡で色が判別できたから、なにも困らなかったし。
だけどあの日、貴方に出逢って始めて“色”を見た。
貴方に出会った
世界が、変わった
キーンコーンカーンコーン
「真菜ちゃーん」
「一緒に帰ろ!!」
私に話しかけて来たのは友達――――――の筈の、恭果と遙(はるか)。
小学校の時からの友達で、ずっと仲良し。
家が同じ方向だから、いつも一緒に帰ってるんだけど…
『…今日は、ちょっとゴメン』
私は風紀委員に入ってるんだけど、委員長が屋上で戦うらしく…。
終わってからサポートとか後始末をしてほしいらしい。
相手のカヴァッ……ロ?って人は部下がついてるらしいから、どうせ自分が居なくて悔しかったんだ。
「あ、分かったー。真菜ちゃんの大好きな委員長でしょ?」
――――そう。
私は委員長に憧れて風紀委員に入った。
“好き”って言うより、“尊敬”だけど。
『そゆこと。ごめん』
「いいよ別にー。また今度ねー」
「じゃねー。真菜ー!!」
『バイバーイ!』
パタパタ
じゃ、ウチも行くか。
予定より少し遅いし…委員長、怒ってるかなー…。
ピーンポーンパーンポーン
《ねぇ、早く来なよ真菜。どうなってもいいの?》
『はぁ?!』
職員の伝達と思われた放送は、明らかに委員長の声だった。
そして、私の名前が呼ばれた。
つまり、委員長→私への伝達。
校内放送使ってって………委員長ってホントに自由。
そして素晴らしい権力。
『今行きまーす!!!!』
誰も居なくなった教室で、一人叫ぶ。
放送室に聞こえているわけ無いけど、一応しよう。
どっちかというとクセだけど。
ワォ、条件反射って凄まじい、そして、クセって恐ろしい。
―――――――とにかく、荷物をまとめていざ屋上へ!!
シパァァン
ガキィィッ
ヒュンッ
ズパッ
――――――っえーっと。
上から順に鞭、トンファー、鞭、トンファー。
現在委員長は戦闘中で、なんか…スゴイ。
速さ、殺気、血。
全てがとにかく凄くて、大きな音をたてて戦っている。
なんか……こういうのに慣れちゃうって女子としてどうなんだろう。
にしても……相変わらず委員長の武器スゴイなぁ…。
トンファーって言うらしいけど、あんまりメジャーじゃないよね、これ。
剣でも銃でも鞭でもない、シルエットなんてこれに似ている武器は無いと思う。
長い(と言っても肘まで位)棒の上の方に取っ手がついてて、そこを握って持つ。
すると腕に沿う様に鉄の棒がついて、それを駆使して戦っている。
この前自慢話された事によると、委員長のトンファーには隠し機能?があるらしくて。
“仕込みかぎ”とか、トンファーから棘がでできたりとか、下からチェーンがでできたりする。
チェーンは余り使わないらしいけど、“めんどくさい相手”には丁度いいらしい。
「………めんどくさい」
あんまり使うことを見たことが無いのは、委員長はあんまりをめんどくさがらないから。
どんなに咬みごたえが無さそうでも相手を倒すのは楽しいらしい。
だから、さっきの発言は意外。
あんなに強そうなのになーって、思ってしまった。
「だけど、貴方はこの手で倒す。
貴方は僕の獲物さ(ニヤッ」
キュン
あぁ……カッコイイ。
鋭い瞳に若干の楽しさが伺えて、でも本人はいたって真面目。
温度差もイイし、まず委員長は見た目がいいから。
あんな顔は、女子の悩殺道具でしか無いんだよね……。
ん…………まてよ?
もしかして、これが恋?
委員長が笑うと、嬉しくなる。
そしてその笑顔にうっとりする。
そして喜ばせたくなる。
んーーでもやっぱり、“トキメキ”じゃ無いんだよねー。
どうなんだろう…。
ハツコイを経験していないから、なんとも言えない…。
「お、あんたが真菜か」
『――――――――はい?』
「キョーカから聞いたんだ。
明日は手下をつれてくるって。
お嬢も大変だな」
『お…………お嬢?!
それに恭果って…』
委員長は恭果さんって呼ばせてるから、恭果って呼ぶ人初めて見た。
よく委員長が許したなぁ…。
いや、この場合許して無いけど勝手に読んでるのかな。
「ボスが恭果って呼ぶからな、俺達も右に習えばだ」
多分ボスっていうのはカヴァッロっていう対戦相手。
多分この人は部下――――とか?
いや、社長じゃなくて“ボス”って言うのに問題がある。
―――――ヤクザ?でもヤクザのドンであんなにイケメンなのは…。
いや、戦闘マニアの委員長と互角だからありかもしれない。
でもヤクザって素手とか金属バットとか使うんじゃ無いの?
いや、それは漫画の中だけかも……。
っていうか、この人よりカヴァッロさんの方が若いよね?!
やっぱり実力でねじ伏せたとか…?
「お嬢、いっとくがボスはジャパニーズマフィアじゃねーぞ」
『ジャパニーズ……マフィア?』
「んーーーっと、ヤクザっつったっけ」
『え……違ったんですか??!』
「いや、合ってるっちゃ合ってるが……」
『イケメンがチンピラ……(ボソッ』
「おいおい……俺等のファミリーはそんな事しねーよ」
『ファミ、リー?』
「(っといけねー)あ、んなことどーでもいい。
終わったみてーだ」
『……で、すね』
カヴァッロさんの鞭が委員長に絡まってて、身動きが取れなくなってる。
委員長の性格とか考えても、委員長が動けなくなるか相手が死ぬまで終わらない。
だからこれも、終了でいいんだよね…?
『委員長、行きますよー』
縄……じゃなくて、鞭ほどかなきゃ。
単純そうに見えて、意外と解きにくい結び方。
だから委員長が解けないんだ。
『あ、ちょっと待って!…ください』
無理矢理引きちぎろうとするから、思わず叫んでしまった。
敬語忘れてたし…。
でも、鞭はそう簡単には引きちぎれないし、引っ張れば逆効果。
委員長はそれに気づいているのか…。
「自分でほどける。
帰っていいよ」
「…………はぁい」
(委員長って頑固だなぁ…。)
改めて、そう思った。
「ふぁー…」
欠伸をしながら、階段を上る。
現在の時刻は6時30分。
もちろん人の気配はない。
授業開始時間は8時50分、野球部集合時間は7時00分。
改めて考えると、私頑張ってる…
ま、その分委員長の名前だして授業出てないんだけど。
カッカッカッ―――
誰もいない階段は、靴音が嫌というほど響く。
一階から四階までの吹き抜けは解放感を促し、自由を感じさせる。
時折手すりにぶつかるバッグの鈍い音が、全てを支配した。
「おはようございます………って、」
委員長は、寝ていた。
寝てはいるが、仮眠用ベッドの上でもなく、ソファの上でもない。
旧応接室である無機質な床に、直で。
「あのー…委員長?」
五感が鋭い委員長。
寝ていようと気づいているはず。
たとえ目元に隈が刻まれていても。
「うるさいよ。僕の睡眠を邪魔するなら――」
「委員長、私です」
例のトンファーを出して緩く構えたそれを、やんわり押さえる。
「あぁ、真菜?悪いけど代わりに見回りいってね。よろしく」
「え、あの、委員長、」
「うるさい。腕章あげるからさっさとつけて。野球部が登校してくるよ」
「え、でも、」
「どうなってもいいの?」
「…………はい」
気づけばもう20分も経っていた。
有無を言わせないオーラに圧倒されつつ、腕章を制服にくくりつける。
騒がしさが増しつつある一階へ、歩を進めた。