「あと、これもね」

示された場所は窓枠の桟で、そこにはまるで外からしがみ付くような指の形で、指紋が残っていた。

「あかね、指紋全部撮っておいてくれる?」

「わ、わかった」

言われたあかねは写真を撮るために身を乗り出した。そんなあかねの後ろに回った要に、由希がぼそりと声をかけた。

「あれって、指紋取るためのもんだったんだね」

「うん、そうだよ」

「一言、言えば手伝ったのに。ウチ、要のそうゆうところ嫌いだな」

呟くように言って由希はあかねの側に寄っていった。
由希の言葉に、内心傷ついた要は下をむいた。その要の肩にズシッとした重みが乗っかった。パッと顔を上がると、目の前に秋葉の顔があった。秋葉は要の肩に腕をまわしていた。
そしてニカッと笑う。

「お前って、本当に完璧主義者な」

「は?」

「なんでも自分でやんなきゃ気が済まない。秘密主義なのは、実はそうゆうことだろ? 悩みがあっても、自分で解決するまでは人には言わないとかな」

秋葉の言葉に要は内心戸惑った。
今まで要は自分を完璧主義者で、自己完結型だと思ったことは微塵もなかった。でも、なんだか図星を突かれたような思いがした。
要はじっと、秋葉を見据えた。

秋葉はいまだ窓の外の指紋と格闘しているあかねと応援している由希を見つめながら、呟くようにして切り出す。

「でもなぁ……頼ってくれない……相談してくれないってのは結構キツイもんなんだぜ? 周りの人間はさ」

言って、要をふり返りニカッと笑った。
そしてそのまま窓に向かった。

秋葉があかねを「まだ終わってねぇのかよ」とからかい。あかねは「うるさいわね!ちゃんと撮りたいのよ!」と怒鳴って、それを由希が苦笑しながらなだめる。
そんな光景を要は見ていた。

そして口角をゆっくりと上げる。
嬉しいような、切ないような、申し訳ないような、そんな気持ちになった。
そして思う。

――ここに、美奈がいたらな――と。