要が3階につくと、早速あかねが「遅い!」と怒鳴った。

「はいはい、ごめ~んね」

軽く要は謝ると、あかねは「もう!」と息をつく。そんな2人のやり取りを無視して、秋葉が要に訊ねた。

「なあ、3階のどこにいくんだよ?」

3階のフロアも2階と同じように、広いが何も置いていない、窓しかないフロアだった。
そのフロアを迷わず要は進む。

「確かこの辺かなぁ?」

独り言を言いながら、ある窓の前で止まり、窓を開けて下を覗いた。

「ああ、ここだここだ!」

言いながら顎に手を置いた要に、あかねが言う。

「ここって、もしかして、さっきの窓の真上じゃない?」

「うん、そうだよ。さすがあかね」

あかねを称えて、要はもう一度下を覗いた。それからリュックからもう一度アルミニュウムと、紙皿を取り出し、筆ペンを握った。

その筆ペンにアルミニウムの粉末をつけると、窓を開けて身を乗り出すようにして、下に向かって手を伸ばした。

後ろであかねの狼狽した声が聞こえたが、要はそれを無視してポンポンとビルの壁にアルミニウムを塗っていく。
それが終わったら、身を乗り出すのをやめ、窓の外側の桟を塗っていった。

「何やってんのよ?」

訳が分からずにあかねは呆れたようにため息をついた。
そんなあかねを「まあまあ」と秋葉がなだめ、由希はじっと要を見ていた。

全てを塗り終わると、要はその手を止めて振り返った。

「ちょっと、これ見てくれる?」

要に下を見るように促された3人は「これ」と言われた通りに要の指の先を見た。
そこには白く指紋が浮かび上がっていた。

その指紋は2階から3階の間の壁に上にのぼってくるようにして点々と数か所についていた。