「その頂点で船が沈没する。



男の方が死んで、女は助かるわね。



しかも、それから女の方は幸せそうな家庭を築くのよ。



それでね、女がその沈没と男のことを過去のこととして回想するシーンがあるんだけど。



今の暮らしとその男との一夜を計りにかけるの。



ヒナだったらどっちのほうがあなたにとって大切だと思う?」



「その一夜のこと」



「でしょう。



それなのよ、あの監督が言いたがってることは。



で、女がその男からもらったペンダントかなんかを海に投げ入れるわけ。



やっぱりあなたとのことは忘れられないわ、っていうようにね」



私は紅茶がさめるのもお構い無しにママの話を聞いた。



ママは何でも知ってる。



私は感動して、うんうんと何度も頷いた。



「今度、タイタニック借りて、菜々子さんと見ます」



「そうしなさい。きっと分かるから」



「はい」



ママは喋りすぎたわ、と言って小さく咳をした。



「今日の元カレくん、ヒナのことがまだ気になるみたいね」



「多分、親とのことも知ってるから…それで」



私は急に口籠もってしまった。



「もう半年経つんだから、一度くらいちゃんと話さないとダメよ」



「分かってます。…でも、お父さんは怖いし、お母さんは私のこと、もう呆れてるだろうし。きっと京が…あ、元カレが、ここにいることを伝えちゃうと思います」



「協力はいくらでもするわ。ヒナにはここで働いてほしいけど、家を飛び出して出てきたままは、あまりよくないと思うの」



「きっと離婚も落ち着いて、話せば大丈夫だと思います」



そうね、とママが笑って、私たちは買い出しをして帰路につくことにした。