「これじゃあ、しょうがない。ママもいい跡継ぎを見つけたじゃねぇか」
「あらあら、ヒナはまだ一番の新人ですよ」
「そうですよ、私なんか…」
「鷹も楽しくやってるわけか。俺も早めに退院するかな」
「もう大丈夫なんですか」
「わりとな。様子見で何度か検査やらあったが、大丈夫みたいだ」
「よかったですわ」
「茂樹さん、あの、これ剥くんで食べませんか?どれがいいですか?」
私はそう言って、お土産に買ったフルーツ盛りを見せた。
「すまんねぇ!えっとな、この梨にしようかね」
「分かりました。用意してきます」
私はビューロに置いてあるお皿とナイフを借りて、病室を出た。
すぐ近くに洗面台の広いトイレを見つけた。
梨をいくつか洗いながら、私はまた京について考えていた。
医大、受かったんだ。
別れてよかった、と私は悲しくため息をついた。
やっぱりあのまま私と付き合っていたら、勉強の邪魔になっていたはず。
勉強もしないで、
親と向き合うのやめた、
こんな私が京の隣にいるのは、絶対おかしいことだから。
いつでも応援してる。
私は小さく笑って、梨をむきはじめた。
「……ハックシュン!」
もしかしたら、京も私に気が付いたのかもしれない。
私はくだらないことを考えながら、皮を包んで捨て、梨を乗せたお皿を運んだ。
大丈夫。
そんなに構えなくても、この距離じゃ、京には会えないから。
私は病室のドアに手を掛けた。