「京…」



一度だけ目が合った。



あの柔らかな雰囲気と、目もとの涼しげな感じが昔と全然変わってなかった。



「どうしたの、ヒナ」



早く乗りなさい、とママがせかして、私はふと我に返った。



「なに、知り合いでもいたの」



「あ、はい。そうなんです。高校の…」



「あら、そうだったら、挨拶しなくていいの?」



「い、いや、また会ったらでいいです」



私はエレベーターの中をぐるぐると歩きながら答えた。



「落ち着きなさいよ」



「そうですよね!でも久しぶりに会ったら何だか、」



───ドキドキしちゃって。



私は黙ってしまった。



この気持ちはきっと、驚きなんだよって自分に言い聞かせた。



ましてや惹かれたなんて、あるわけないんだから。



「どうしちゃったのよ、もう。ほら、着いたんだからしっかりして」



「はい」



私は一度大きく息を吐いて、エレベーターを降りた。






***






「おお、ママ!わざわざ来てくれてありがとうねぇ」



ベッドに座っている様子とは不釣り合いな、元気な声の鷹さんのお父さんがいた。



「あら、茂樹さん、元気じゃありませんの。安心しましたわ」



「前の健康診断で引っ掛かったのが、腫瘍だったのさ。悪性じゃあなんだがね、鷹が早めに治せってな」



「そうでしたか。お優しい息子さんですね。こちらは鷹さんのお店に通ってるようで、ヒナといいます」



「こんにちは、はじめまして」



「おぉ!鷹が騒いどった女かい!よく魚を買いに来る若い姉ちゃんがいるってんで、今度は鷹が通いだしたっていうわけか」



「たまたまそういう話になって、この前いらしてくれました」



私を頭から爪先まで何度も見たあと、茂樹さんは大きくうんうんと頷いた。