「きっとお仕事が忙しいのよ。こっちに来てるのも元は出張なんだから」
ママはクスッと笑って、可愛いかごに入ったフルーツ盛りを選んだ。
「そ、そうだといいですけど」
連絡先くらい、聞いておけばよかったかな…
私はぼんやりとしながら、ママが買ったフルーツ盛りを受け取った。
***
「こちらに入院している水野茂樹さんのお見舞いに来たんですが」
私は受付のお姉さんに話し掛けた。
病院特有の、薬とミルクが混ざったような甘ったるい感じが鼻をくすぐった。
「あ、はい、調べてみますね」
ママは待ち合い用の椅子に座っている。
「4階、相部屋3号室の、窓際左です」
「はい、ありがとうございます」
私は頭を下げ、ママと一緒にエレベーターに向かった。
「茂樹さんの体調、どのくらい悪いのかしら」
「それほどじゃないといいですよね」
「鷹ちゃんからは何か聞いてないの」
「いえ、悪化しないうちに引き継いだとしか」
上の階から降りてくる、ランプの点滅が変わった。
チン、と小さく音がして、エレベーターのドアが開いたそこに見知った顔を見つけた。
「……えっ」
一瞬の出来事で私は理解できなかった。
降りる人を待ち、それからママは何もなく4階のボタンを押している。
だがそこにいる真新しい白衣をまとい、研修生とかかれたホルダーを下げているのは、
紛れもなく榛原京介という男だった。