直之と出会ったその日、私は彼の家に泊まった。警戒心は全く湧かなかったし、そんなことよりも彼のことを知りたいと思った。
笑顔が慧に似た男のことを。

部屋は一人暮らしにしては広い2DKだった。お金持ちなのかと尋ねると、直之は笑いながら首を振った。
「今これしか無いんだけど」
室内を遠慮なく見回していた私に彼が差し出したのが赤い缶に入ったストレートティーだったから少し驚く。これは私が一番好きな飲み物だ。
慧が家に遊びにくる度に私は必ずこのストレートティーを出したもので、甘党である慧はいつもガムシロップを入れて飲んでいた。
目の前に座る直之は缶を開けるとそのまま飲む。

それを見たら泣けてきた。彼は慧の生まれ変わり―――もしくは慧は実のところ生きていたのだとかという馬鹿らしい考えを否定された気がして。勝手な希望を絶たれて、私は泣いた。
「どうしたんだよ、穂波さん?」
当たり前ではあるが直之は慌てた様子で、隣にやってくると慣れない手付きで私の頭をぽんぽんと撫でた。
そうされると何故か「この人の前では泣いちゃいけない」という声が頭の中で響き、不思議と簡単に泣きやめた。