手を繋いだまま走って息が弾みきった頃、私たちは走るスピードを徐々に落としていった。それと同時に自然に手を離す。
田舎であるため辺りには本当に何もなく、電灯がほとんど無いこの道は異常なまでに暗い。
「あ、あの…ありがとう」
呼吸を整えながら礼(助けてくれたことと、それからあの男を殴ってくれたことに)を言うと、隣を歩く恩人のノッポが笑った。
「いいんだ、あの男に腹が立っただけだから」
すんなりとそう言いながら彼はさっさと歩いていく。何も言われていないのに私はあとを追いかけ、結局彼の自宅であるというアパートの部屋にまで着いていった。

「…"駒ヶ峰直之"」
アパートの廊下に付けられている蛍光灯の光がちかちかと揺れる。
表札を読み上げる声で漸く私の存在を思い出したのか、彼は私に振り返った。
「…着いてきたんだ?」
おかしそうに喉元が動く。
「入ってく?名無しさん」
ほとんど考えもせずにただ一度頷いてみせる。
「…私は藤原穂波。穂波」
一瞬何故か驚いたような顔をした後に、頼りない光の中で目を線にして柔らかく笑うノッポ――いや、直之は慧によく似ていた。

これが直之との出会い。
漫画みたいな出会い。