「穂波、お前だって慧が死んで心の底じゃ喜んでるんだろ?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「あいつ、お前のことかなり束縛してたじゃん。鬱陶しかったろ?俺もお前に近寄れないし…だから死んでも良かったんだよ」
気持ち悪い声が耳元で聞こえ、かさかさな唇が私の唇に重ねられる。この馬鹿が何を言っているのかいまいち分からないままだったけれど、取り敢えず殴りかかろうと拳をかざした。
「うがぁっ?!」
私の手首を掴んで居た男が汚い声で悲鳴を上げる。私が彼を殴ったから、ではない。私が殴る前に、突然現れた第三者である知らない男が彼を殴りつけたからだ。私は足がすくんで動けず、頭を押さえて蹲る「慧の親友」であったはずの人間を見下ろしていた。

「何やってんだ!逃げるんだよ!」

驚いて呆然としている私の手首を掴み、その人物は走り出す。その場が暗かったから見上げるくらいに背が高いということ以外には分からなかったけれど、何故か私は安心していた。
第三者の声と慧の声が重なった気がしたから。