さておき。慧のお母さんから嗚咽混じりの声で電話を貰い病院に駆け付けた時、慧の顔にはきっちりと白い布がかけられていた。顔を見てあげて欲しいと言われたけど、丁寧に断った。慧の死を認めたくなかったのかも知れない。

そういう訳で、私がちゃんと彼の死顔を見たのは葬式の時だ。

すすり泣きで満たされる室内で一際目立つ白い箱に慧は入っていると聞かされたけど、私には信じられなかった。
沈んだ空気の中でその箱はひどく小さく見えたし、私は彼が死んでしまったとはまだ認めていなかったからだ。

覚悟を決めてゆっくりと白い箱に近寄る。その窓から中を覗いた時、白い顔が見えた。
この人は誰かしら?慧じゃないよね。この人は誰かしら?慧じゃないよね。
本当は解っているはずの事実を頭の片隅に追いやり、馬鹿みたいに繰り返しながら白い箱を開け放つ。
左右に分けられた長い前髪と、笑っているわけではないのに見事な線が二本。愛しい顔がそこに在った。

漸く私は理解する。


慧が死んだ。
私の大切な人が死んでしまった。

ぐらりと頭が揺すられ、吐き気がした。