その一夜の内に何があったのかと問われると、今語ったことだけだ。それ以上は何もなかった。
要するに、犯されそうになっていた私を助けた男の家に行って、相手からしたら訳が分からない涙を晒し、とりとめのない話をして、眠りについただけ。(そういえば涙の理由を話すこともしなかった。)
彼から誘うことも、もちろん私から誘うことだってなく、体の関係は持たなかった。

本当に何もなく意味もなく一夜を過ごして、たったそれだけだったのに私たちは携帯電話の番号を交換し、頻繁に連絡を取り合うようになった。
私は彼を直之と呼び、彼は私を穂波さんと呼ぶ。そのどうということのない関係が成り立った。
それだけだ。