怒って先帰っちゃった…?


道には誰も居らず、あたしだけポツンと立っていた。


痛みと悲しみで涙が出て、制服の袖で乱暴に拭ったその時。


『おい!』


……え……?


その声に視線を向けると、走ってこちらに向かう陽雄の姿があった。


状況を理解するより先に、陽雄はあたしの前にしゃがみ込むと、濡らして来たと思われるハンカチであたしの血が出る膝を拭く。


突然の行動に、あたしは問い掛ける。


『ひゆ…じゃない沖田くん、これ…っ』

『ほっとくと化膿すんだろ。何もしないよりはマシだから』


陽雄はそう言って、あたしの膝を丁寧に拭いてくれた。


血が付いて、ハンカチ汚れたのに。
陽雄は立ち上がり、怒る訳でもなく、馬鹿にする訳でもなく。


たった、一言。


『…気を付けろよ』


そう言って笑ったんだ。