四人が教室を出て行ったあと、後ろの席の佐枝がまた美鈴の肩を叩いた。どうやらこの状況に何かを感じ取ったらしい。
「ねえ、おかしくない?」
 美鈴が振り向くと佐枝が赤いフレームの眼鏡を吊り来あげていた。
「何が?」
 美鈴のショートカットの髪が揺れる。彼女は佐枝の感じていることが判らなかった。
「だって二時限も続けて自習だよ。それに何故あの三人を連れて行ったの?」
「さぁ、私に判るわけないじゃない」
 美鈴はそう言って空いた三人の席を見た。そして今日はまだ来ていない三上響子の席を見た。相変わらず影はその傍らにあった。
「こぉら、自習中は静かにしていなくちゃいかないんだぞ」
 不意に声をかけられ、二人は振り向いた。そこには榊啓介と杉山義男の姿があった。四人は小学校以来の友人であった。四人はいつも一緒にいて、一緒に遊んでいた。けれども小学校五年くらいからだろうか、いつの間にか男子と女子は距離を置くようになって来た。
お互いを異性として意識し始めたのだろう。だが、中学生になって再び距離は近づいてきた。互いを異性として意識しながらも…。
「なによ、あんた達こそ席に戻りなさいよ」
 佐枝がきつい目で二人を睨みつけた。
「そういえば、三上の奴がまだ来ていないな」
 啓介の声に義男と佐枝が響子の席の方に向く。
「あいつが授業をフケルことは今日に限ったことじゃないぜ」
 確かに義男の言うとおり三上響子が遅刻したり、早退することは珍しくなかった。けれども今日は違っていたことを四人はまだ知らなかった。