小島と恵は美子の急変に息を呑んだ。彼女の細い体の中には、その体をこわしてしまうほど強い感情が秘められているのを感じた。「それは、娘さんが自殺されたことを仰っているのですか?」
 小島は興奮している美子を刺激しないよう、穏やかに言った。だが、美子の興奮は治まらない。
「そうよ、沙保里は自殺したんじゃない。あの子はそんな子じゃない!」
 美子はそう叫んで隠し持っていた一冊のノートをテーブルに叩きつけた。
「拝見してもよろしいですか?」
 小島は真人の方に視線を移した。
 真人は声もなく二人に向かって頷いた。
 それは沙保里の日記だった。中学校に入学した時から始まり、自殺する前日まで続いて彼女が体験したことやその時の思いが綴られていた。そこにはこう綴られていた。中学校に入学してから暫くの間、彼女には友達が出来ずに寂しい毎日を送っていたこと。三上響子達に声をかけられ、彼女達の仲間に入ったこと。いつの頃からか机や鞄、教科書などに『死ね』と書かれるようになったこと、その首謀者が響子達だと知ったこと、そんな毎日がいつ終わるのか判らず次第に生きる希望を失っていったこと、それども両親に心配かけられないので学校に通い続けたこと。
 沙保里の痛ましい日常が綴られていた。
 警察はこのノートを見て沙保里の死は自殺だったと判断したのを二人は知った。