へらへらした奴が私の視界に入って、そうして私の聴覚を犯していくのが、とにかく気に障った。
そんな奴に一瞬でもときめいた自分に、もっと腹が立つ。
湧き上がる衝動のままに悪態をついて、それでもスッとしなくて虫の居所がわるくて。
「ねえ、こんなの外しちゃえば?」
苦し紛れに、すぐ近くにあった奴のネクタイをグッと引っ張ってみた。
「こんなの、アンタには似合ってない」
言いながら、その手を緩めることはせず、むしろググッとさらに力を込めた。
綺麗に歪む顔を見て、ほんの少しだけ満足をする。
これで勘弁してやろうと、私はスッと手を放す。
つもりだったのに。