不意にハル君がこちらに視線を向ける。
私は慌ててあからさまに視線を逸らす。
ドキドキドキ……。
悪いことをしている訳でもないのに心臓が煩い。
目を合わすことができない。
そろそろいいかなーなんて思って、もう一度ハル君に視線を戻す。
「それじゃあ今から始めますね」
「よろしくお願いします」
途中から二人の話をまったく聞いていなかった私は、二人が立ち上がるのを見て、慌てて後を追うように立ち上がった。
ハル君のことが気になりすぎて、心ここにあらずって感じ。
そうだ。家庭教師ってことはハル君と密室に二人きり。
どうしよう。
今更ながら緊張してきて心臓が壊れそう。
何でこんなにも緊張するのか、どうして心臓が凄いスピードで鳴るのか、さらには何で体が震えてくるのか。
分かんない、分かんないけど。
まるでステージの上に一人で立って、大勢の人に一斉に注目されているような気分。
手の平に人という字を三回書いて飲み込みたい気分。
なんて思っていると私の部屋にたどり着いていて、お母さんはオレンジジュースの入ったグラスを二つ、机の上に置いて出て行った。
ドアがパタンッと閉じる。
二人きり。
ど、どうしよう。