遠目に見たその人は、想像通りの黒髪に黒ブチ眼鏡。
けど、髪はフンワリと軽くセットされていて、あからさまなインテリじゃないかも。
ちょっと楽しみになってきた。
家の前までの長い通路を胸をドキドキとさせながら歩き、鍵を取り出してゆっくりと玄関のドアを開けた。
「ただいまー」
リビングからお母さんが出てくる。それに続いて、おそらく家庭教師と思われる人も出てきた。
「おかえり、紗夜香。あ、家庭教師の方来られてるわよ」
年上の男性とあまり接したことがないから、少し恥ずかしくなって上手く顔を上げられず。
お母さんの後ろに立つその男性の、ワイシャツの一番上のボタン辺りに焦点を合わせた。
そこを見ていると、あたかも視線を合わせているように感じるはずだから。
「初めまして、仁科と言います。今日からよろしくね」
あ……
あれっ?