「頑張ってね」
そう言われて私は駅のホームへと降りていった。
電光掲示板の隣にある時計で時間を確認し、少し早足で家へと向かう。
家庭教師ってどんな人が来るのかな。
私の勝手なイメージでは、黒ブチに牛乳ビンの底のような眼鏡をかけていて。
髪の毛はきっちり7:3に分けていて、ワックスで塗り固められていて妙にてかっていて。
眼鏡のフチを持ってクイッと持ち上げたりして、頭がいいことを鼻にかけて。
あー、何かそんな人来たら嫌だなぁって自分の妄想で勝手に落ち込んでいく。
アスファルトに映る自分の影を追い掛けながら、国道沿いの道から左折して、細い路地へと入っていく。
ドキドキ。
ワクワク。
何だか妙に胸を弾ませる。
期待して想像通りの人が来たらへこむから、期待しないように自分に釘をさす。
そして、団地の階段を上がっていくと、家の前らしき場所に一人のスーツ姿の男性が立っていた。
もしかして?
ガチャ――。
小さな音が聞こえたかと思うと、開いたドアからはお母さんの姿が見え、その男性は軽くお辞儀をするとそのまま家の中に入っていった。