「家庭教師にしてほしいって頼んだんだ。塾だったら周りに合わせて進んでいくでしょ。どうせなら自分のペースで勉強したくて」
分からないことがあれば、周りに気兼ねなく質問できるし。
通う手間も省ける。
「でねでね、聞いてくれる?」
私の迫力に香里奈は笑って頷く。
「お母さんってばすぐに電話してね“そちらで一番頭のいい人がいいんですけど”なんて言って申し込んだんだよ……本当に恥ずかしいったら」
「アハハッ。いいじゃん、頭いいほうがさ。にしても、親子そろって行動早いねー」
「うん、そこはお母さんに似てるかも」
思い立ったらすぐ行動するところは似てよかったって思える。
だけど、変に意地っ張りでプライド高いところは絶対お父さん。
そんなところ似たくなかったな、なんて思いながら。
減速していく電車はやがて、見慣れた町並みを走っていく。
降りる駅はもうすぐ。
バイトのない香里奈は、私より二駅先で下車。
スクールバッグを肩にかけ、香里奈の前を通って窓側から通路側の席に変わってもらった。
「カテキョっていつから?」
「今日の六時から」
「また急だね」
「その一番頭がいいって人が月曜しか空いてないらしくて。しかも秋までらしいんだけど、とりあえずお試しってことで。
テスト前だし今日からにしてもらったんだ」