まさか、と思いつつも期待している私がいる。

遠めに見るその“春斗”さんと言う人は“ハル”君と背格好も似ていて、日に当たっている髪の色も心なしか似ている気がする。

もし“ハル”君だったら?

何て声をかければいいんだろう。

会えるなんて思ってもいなかったから、咄嗟に出てこないけど。



「紗夜香ー。どうしたの一体?」



だんだんと膨らんでいく期待に激しくなる心臓の音。

周りの声も耳を擦り抜け、そこ一点に意識が集中する。

校舎に一歩一歩近づいてくる彼は、一人の先生と肩を並べて歩いてて、みんな近づきたくても一定の距離以上近づけないみたいだ。


その時……。

別の階から「春斗さーん!」と大きな叫び声が聞こえ、その彼が顔をゆっくりと上げた。



「あっ……」



私は静かに席に戻り、フッと息を吐いて肩を落とした。 

続いて香里奈も前の席に腰を下ろして、不思議そうに私を見つめてくる。



「どうしたの?」

「何でもない」

「言いたくないならいいけどさ、何でもないって顔じゃないよ?」



自分でも驚くほどの落ち込みようだった。

香里奈が見ても分かるほど。

そんな偶然があるわけないって、頭では理解してるつもりだったけど。

それでも、ほんの少しだけ期待してしまってたんだ。


ハル君かもって。