「出よう」
「えっ、ちょっと待ってよ」
トレーを持って立ち上がった颯平の後を追う。
店内を出ると辺り一面に穏やかな風が吹いていた。
「んっ」
「何?」
「だーかーら!!」
強引に私の手を掴んで指を絡ませてくる。
今度は失敗しなかったと呟きながら。
一歩後ろを歩いて颯平の背中を眺めながら絡んだ指を固く握り返し、一人穏やかに微笑んだ。
颯平と過ごすこんな時間は、まるで春のように心がじんわりと温かくなっていく。
刺激も何も求めない。
ただ、こんな時間がいつまでも続けばいいと思うだけ。
「好きだよ」
恥ずかしいから背中に向かって、気付かれないように小さく呟く。
この気持ちが恋だと言うのなら、ハル君に抱いた気持ちは別の感情だ。
それが何かと聞かれたら、はっきりとは答えられない。
ただ気になるだけ。
好きなのは颯平だけ。
いつもの帰り道――。
お互いのことを話しながら手を繋いで歩き、人通りから離れた公園の近くの路地でこっそりキスをする。
毎回同じことの繰り返し。
それでいい。
それがいいんだ。
そう自分に言い聞かせる。
これからも颯平とこうして過ごしていける。
この時の私は、そう思っていたんだ……。